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SEIKO GRAND QUARTZ 4843-8110


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【名機再訪】セイコー グランドクォーツ 4843-8110 — 70年代の情熱が宿る「究極の日常時計」

最近、SNSやヴィンテージショップで密かに、しかし確実に盛り上がりを見せている「オールド・クオーツ」の世界。その中でも、圧倒的な完成度と時代背景の面白さで、今改めて評価されている一台があります。

それが、1970年代後半に登場した「SEIKO GRAND QUARTZ(グランドクォーツ) Ref.4843-8110」です。

今回は、この時計がなぜ今もなお人々を惹きつけるのか。そして「リューズ」や「留め具」に隠された、今の時計が忘れてしまった細部へのこだわりについて、たっぷりと語っていきたいと思います。


1. 「GS」の魂を継承した、妥協なきクオーツ

1970年代半ば、セイコーは一つの大きな決断を下していました。かつて世界を席巻した機械式の「グランドセイコー」の生産を一時休止したのです。

しかし、それは決して「最高峰」を諦めたわけではありませんでした。むしろ逆です。当時の最先端技術であったクオーツを使い「機械式を超える、究極の精度と高級感」を目指して誕生したのが、この「グランドクォーツ」でした。

48系ムーブメントを搭載した本モデルの当時の価格は、約8万円から10万円前後。1975年の大卒初任給が約9万円だったことを考えると、現代の感覚では30〜40万円クラスの高級時計。まさに当時のエリートたちが覚悟を持って手にする「成功の証」だったのです。

2. 「8110ケース」が放つ、惚れ惚れするような造形美

このモデルの魅力は、型番の後半にあたる「8110」というケース形状に凝縮されています。

  • ザラツ研磨が生むシャープなエッジケースの多面的なカットは、熟練の職人による「ザラツ研磨」で磨き上げられています。歪みのない鏡面と、緻密なヘアラインの対比。50年近く前の時計とは思えないほど、その輪郭は鋭く、モダンです。
  • 立体的なインデックスと針肉厚で多面カットされたバーインデックス。そして力強いドルフィン針。いかなる角度から見ても時刻が読み取りやすく、かつ宝石のような輝きを放ちます。
  • 6時位置に配された、水晶を模したクオーツのマーク。

3. リューズに刻まれた「クオーツ」の誇り

さて、ここからは細部へのこだわりを見ていきましょう。まずは「リューズ(竜頭)」です。

注目すべきは、リューズのトップに刻印されたロゴマーク。ここには、文字盤と同じクオーツマークが誇らしげに刻まれています。

現代の時計では、このサイズのリューズに刻印を入れるのはコストがかかるため避けられがちですが、当時は違いました。時刻を合わせるたびに、指先に伝わる刻印の感触。それが、この時計が最高級機であることを所有者に再確認させてくれるのです。

また、ケースのラインに半分埋まったような絶妙な配置も、袖口への干渉を防ぐための「実用的な美学」を感じさせます。

4. 留め具(クラスプ)に見る、驚異の「面出し」と美学

そして、時計を腕に巻く瞬間に触れる「留め具(クラスプ)」、ここがまた凄いんです。

お写真にある純正ブレスレットの留め具を見てください。そこには誇らしげに「GQ(GRAND QUARTZ)」のエンボスロゴが刻まれていますが、注目してほしいのはその周囲の仕上げです。

今の安価なブレスレットなら、ただのプレス加工で終わるところを、この時代のグランドクォーツは違います。留め具の四隅やエッジ部分まで、ケースと同様に「面出し」がしっかりとなされているんです。

ブレスレットの駒自体も非常に細かく、腕にしなやかに巻き付くような構造ですが、その終着点である留め具にまで、一切の妥協がありません。「GQ」の文字が刻まれた小さな四角いスペースが、まるで一つの宝石のように独立して輝いて見えるのは、この丁寧な仕上げのおかげです。腕を机に置いたとき、ふと目に入る留め具の美しさに、所有者は改めて惚れ直すことになります。

今の効率重視のクオーツでは、コストがかかりすぎてまず採用されない仕組みです。リューズや留め具、そしてムーブメント。どこを切り取っても、当時のエンジニアたちの「狂気じみた情熱」が息づいています。

まとめ:時を超えて愛される「日本の名作」

セイコー グランドクォーツ 4843-8110は、単なる古い時計ではありません。日本が時計界の頂点を目指した時代の熱量が、ケース、リューズ、そしてブレスレットの留め具に至るまで、隅々に凝縮されたタイムカプセルです。

指先に伝わるリューズの感触、腕に巻くときの留め具の輝き、そして正確に時を刻む誠実さ。

それらすべてが、今の時計が忘れてしまった「純粋な情熱」を思い出させてくれます。

もしあなたが、長く連れ添える「真の相棒」を探しているなら。

この、少し頑固で、でも驚くほど誠実なオールド・セイコーを、ぜひ一度手に取ってみてください。


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